死線生理

 女性にとって自分の体というのはコントロールできないものであったと思う。みなそれぞれ、基本的に何か障害を抱えていなければ、自分の体というのは自由気ままに動かせるものだと思い込んでいる。女性にとっての生理はそういう思い込みを一刀両断し自分の身体に関する挫折を教え込んでくれる現象だ。生理があることで、我々は自分の魂の膜たった一枚の先の身体はまったく言うことなど聞いてくれないことを知る。
 それでも昨今はフェムテックなどのはやりもあって、生理方面の不快感をやわらげようとしてくれている。フェムテックはもっと根本的なものであるべきでないか(子宮がんの発生を抑制するとか、乳がん検診の画期的な方法とか、そういった)と思う一方、その言葉自体のはやりに乗っかることはきっと次世代の土壌になるに違いないので進んでそれを肥やしている。私もおかげで生理周りについては自分の身体に対する絶望的挫折感と言うほどのものでもなくなってきた。もちろん月に一回、股から血が流れるという生理学のシュールさとそのシュールが理性的人間に内包されていることの滑稽さはあるのだが。その範囲内においてまあまあうまいこと対処できるようになってきていますね、という印象。

ピル
 以前もブログで書いたけど、血栓症の懸念がない方にはピルを非常におすすめしたい。毎日一錠飲むというのは負担がないようで割合面倒だけれど、21錠飲み終えるとその2日後にきっかり生理(ただしくは消退出血)が来るのはホルモンに対する科学の勝利という感じで本当に感動する(2日というのは私の場合。飲み始めて1年は1-3日後とばらつきがあった)。ホルモンは科学で管理できる。あっ、ホルモンは作れる!だね。
この「体をコントロールできる」という感覚が非常に重要で、結果的に体をある程度自分の意思で変えられることは「自分の人生は自分でなんとかなるのだ」という肯定感にもつながると思っている。我々女性は生理が月に1回起こることでそういった自己肯定感を知らないうちにないがしろにしているのではないかというのが私の推論である。
 ちなみにピルを飲んでいることを知ると「じゃあ中出ししていいね」というバカな男は思っている以上に多く存在する。ピルの避妊率が必ずしも100%じゃないこと、ピルでは性病感染を防げないこと、「俺性病じゃないよw」と言うけれどもそういう人間に限って一度も性病検査をしていないことが多いこと、コンドームをしてようがピルを服用していようが妊娠しているしていないは結局生理が来るその日まで真にはわからないわけであって相手との関係性によっては女は生理が来るその日までそんな行為を許した自分へのいらだちと不安で発狂しそうになること、等等について理解していない男性が性行為を覚えるのは早すぎる。このあたりの話もしたい話は山程あるのだが本日のお題からはずれてしまうのでまたの機会で…。

タンポン
 ピルと同じく出会いは遅かったがこちらも使って感動したもの。基本的には日本の女子が使う生理用品はナプキンであるし、タンポンの「膣に入れる」というそのあまりにも直接的な使い方が共有を妨げるのかもしれない。私も幼い頃薬局でタンポンを手に取ってこれはどうやって使うのか聞いたときの母の気まずい顔をよく覚えている。
 このあと紹介するシンクロフィット(ソフィ社)もそうなのだが、タンポンは経血の流れ出る感じにとても有効。ナプキンを変えるタイミングに神経質にならなくて済むし、ジムなどでトレーニングするときも経血の漏れを気にしなくてよくなるし、ナプキンと併用する方法がもっと早い時期から一般的になってもいいのではないかと持っている。膣から血が出るにまかせて、というのはちょっと自分の体の仕組みに対して無防備すぎるような気さえしてくる。
 ただタンポンはトキシックショック症候群のリスクがある。日本衛生材料工業連合会によれば非常にまれな病気であるのらしいのだが(日本衛生材料工業連合会 2008)、昔TSSで脚を切断した女性の記事を読んだことがあり(不用意に不安を煽るのも良くないのでリンクは貼らないが)、私も寝るときと、少しでも体調が悪いときはあまり使わないようにしている(そしてそういうときにシンクロフィットはとても便利)。そういうこともあるからか日本ではあまり広まらないのかもしれない。ただリスクを知り、リスクを最小限にする策を施した上で使えばこれほどまでに便利な生理用品は無いと思う。
ところで女性関連用品ってどうしてこんなに名前がダサいのだろう。タンポン、ナプキン、極めつけはブラジャーよ。「ジャー」部分の致命的なダサさ。タンポンも「ポン」て。ナプキンは「プキン」が気に食わん。と思ってたけどまあじゃあ「コンドーム」がかっこいいわけでもないしそんなもんなのか。

シンクロフィット
 さしはらちゃんねるのおかげでバカ売れか?私も彼女の動画で初めて知って早速使ってみたが、タンポンに比べるとちょっと微妙な面があり、それがトイレ(小)のたびに取り外す必要があること。タンポンであればまあ、ちょっとの小くらいは(紐にかかるくらいだし)と思って私の衛生観念上あまり気にしていないのだが、シンクロフィットは外陰部に挟むものであるので、放尿でもろ尿を吸収してしまいお話にならない。ナプキンも必ずしもトイレのたびに取り替えるわけではないし(特に経血量が少なく、かつトイレの間隔が短い人にとっては)、シンクロフィットをトイレのたびに取り替えていたらえらい費用になってしまう。2021年9月現在、シンクロフィットは12ピース×5個パックで1,323円、1個あたり22円である。1日5個6個使うと少し負担感が出てくる金額のように思う。
 と思いつつAmazon等のレビューを見て回っていたが、どうやらそもそも「トイレになかなか行きづらいとき」によく使われているものっぽい。私もいまとなっては在宅勤務で我慢レベル1 くらいでもトイレに行ってしまうものだがかつて接客業をしていたときは4時間くらいトイレに行かなかったのだし確かにそういう状況にある人のほうが恩恵を享受できる生理用品だと思う。ただ私はそういうときはタンポン使うし、タンポンに不安がある方向けという感じかな。
 というわけで私はこちらはあまり日中は使っていないが、タンポンを使いたくない就寝時やタンポンを使うのはちょっとためらわれる体調の時なんかに活用している。就寝時はややずれるので(ずれるというか朝起きるとくちゃくちゃになっている)ナプキンおよび後ろまで吸水面のある吸水ショーツとの併用が吉。

吸水ショーツ
  いまフェムテックと聞いて必ず取り上げられるのが吸水ショーツではないか。どのメディア媒体もこぞって取り上げている。かなり高かったし(下記参照)、使用感や洗濯方法についてためらうことも多く購入を見送っていたがようやく買った。
 良い点といえば、まさに吸水部分がついているところ。ナプキンの横漏れや後ろ漏れでシーツを洗濯していたあの日々が全部無駄だったのだとわかる。一度マットレスまで汚してしまい、それが無印良品の脚付きマットレスで、まだその頃はマット部分のカバーが取り替え不可のタイプのものだったのでベッドまるごと買い替えたことがある。悲哀。サニタリーショーツすべてに標準機能として吸水部分を多かれ少なかれつければ良いのに…。
 基本的に私は量が多い日(2日目)の昼間は吸水ショーツに加えナプキン+タンポンと併用。夜寝る際もナプキン+シンクロフィットと併用。これは吸水力そのものというよりも翌朝なるべく汚れの無い下着で一日活動したいからという理由による。量が少ない日(1日目、3日目以降)は基本的に日中は吸水ショーツのみで過ごす。夜はナプキンと併用。という感じ。特に量が少ない日にナプキンを使うのがなんとなく無駄…と思っていたのでほぼ吸水ショーツのみで乗り切れるところで日中のナプキンの持ち歩きが不要になるので良かった(しかしこの衛生面については下記参照)。
 洗い方としては、各メーカーは15分アルカリ性洗剤でつけおき→その後洗濯機で、を推奨しているが、洗濯のサイクルに合わせるのも煩わしいので私は15分つけ置き→手洗い、という感じですべて手洗いで済ませている。15分つけ置きのときには園子温の「冷たい熱帯魚」ばりに水がかなりエグい色とにおいになるのだがまあこれも生理のリアリティ。
 若干悪い点はまず消臭効果がほとんど無いところ。わかると思うのだが女性が用を足すときは下着のクロッチ部分が自分の顔に向かっているしそういう姿勢なので下着のにおいがどうしても自分に直撃する。生理用ナプキンであればにおいの元ごとさっと包んで済むのだが、吸水ショーツだとトイレ中ずっとそのにおいと文字通り向かい合っている必要がありストレスが大きい。各社防臭機能をつけていると書いているが少なくとも私が買ったものについては感じない。(ただ服を着ていればわからないにおいなので過剰な心配は不要だと思う。)
 懸念している点は衛生面である。私は初潮を迎えた頃に母に口酸っぱくなるべくナプキンは汚れたら頻繁に変えるようにと言われていた。「生理終わりかけの量が少ないときは1日つけっぱなしにしてるわw」というようなことを伝えたらそれはおまたに良くないからやめろと言われた。それはやはり経血は(時間が経つと)衛生的なものではないしそれが蒸れて自分のデリケートな部分に接し続けているのはよくないから、という考えに基づくものだと思うのだが、ようするに吸水ショーツはこの非衛生的なことを地で行っていることになって、それは女性の健康上大丈夫なん?と素人ながらに思う。上記のようににおいが発生しているということはやはり雑菌が繁殖しているということだし、各社ナプキンの場合はこまめに取り替えないと雑菌の繁殖、におい、かゆみの原因となると言っているし(オムロンワコール)、で、うーん。一方で吸水ショーツ側のムーンパンツはFAQで「雑菌は繁殖することのないように作っている」と話しているし、Thinxは装着の時間については経血量で選ぶ旨が書いてある(つまり装着時間でどうこうというわけではない)。でももしかしたら私のこの心配もプロから見たらデマっぽいのかもしれないし、「フェムテックだ〜吸水ショーツだ〜便利だ〜」の前に女性の根本的な健康のためにメディアがしっかり検証してほしいとも思う。
加えて、もうちょいメディアが頑張って検証せえよと思うのはその金額面のことである。吸水ショーツについてメディアが「長い目で見ると節約に繋がる」と言ったりするのを耳にするが、吸水ショーツは現時点ではまだ非常に高く、そして生理用ナプキンは非常に安いのでなかなか節約につながるとも言い難い面がある。たとえば、私が愛用しているソフィボディフィットふつうの日用羽つき21cmは1パック22ピース、2パック入りで2021年9月22日現在価格262円である。1パックで131円。吸水ショーツを使う前はこの昼用のみ1パックを消費していたが(これはかなり消費量が少ないほうだがもともとタンポンやシンクロフィットを併用しているのと、もちろんピルで月経量が大幅に減っているから)導入後はまあ0.3パックくらい。なので吸水ショーツで1ヶ月あたり半分の90円程度浮いていることになる。もしかするとタンポンの使う量とかも減っているかもしれないので切り上げて1ヶ月100円程度の節約としよう。
一方で、吸水ショーツはけっこう値段が張る。私が買ったムーンパンツはヘビー&ナイトタイプで約5000円、NagiのSlimタイプは約6000円。もしかすると楽天とかでもっと安く買えたのかもしれないが…。合わせて11,000円。吸水ショーツを買った元が取れるのは11,000円÷100円=110ヶ月後、約10年後である。下着各社が1-2年で下着は寿命ですよマーケティングをやっているのはさておき、10年も同じパンツ履くかい!(私はちなみに8年前くらいの下着がまだクローゼットの中に入ってるが、これはラブの相手が褒めてくれた下着で、私はそういうところにねちっこい情緒を感じるタイプの人間で、しかしこれもやはり現役下着としては使っていない。東博に鎮座してる武士の甲冑みたいなもん。)
なお、最近ユニクロやGUが吸水ショーツを出しはじめていて、これはこれでせっかくスモールスタートアップが頑張って出した技術を後攻優位で大企業が取り上げてしまうのはどうなの、と思わないでもないのだが、スモールスタートアップの製品に比べると非常に価格が低く、ユニクロで1枚1,990円の価格になっている。これであれば上記の前提だと2枚購入で3,980÷100円=約40ヶ月後、約3年後…それでも3年後か…。(もちろんピルを使っておらず、1ヶ月で500円分くらいの生理用品使っていますよという方ならもっと投資回収期間は短くなるのだが。)(しかしそういった状態ならピルを買ったほうが、上記のような自己肯定感、自分の体のコントロール感という意味も含めて有意義だと思う。ピルも毎月1,300円〜3,000円程度するので、それこそ節約とは程遠いのだが…。)
 吸水ショーツが一定程度便利なことには違いないが、そこで「経済的」という文言を掲げていたら生理事情をよくわかっていない人が書いているんだろうなと斜に構えてしまう。生理ナプキンの無償化運動は素晴らしいものとして、一方で日本で生理用品というのはめちゃくちゃ安い。まあ断言してしまったが夜用などになるともっと値が張るし、夜用を日中使わなければならないほど月経量が多い人はこの限りではない(月経量が多い人は一回病院に行ってみてほしいと思うけど、月経量が多いことで病院に行く人は少ないし、そして月経量が多い人は案外周りに多い)。ただ月経量が多い人であればなおさら、吸水ショーツを使ってもある程度はナプキンを併用しなければならないだろうし、やはり節約額としての幅はそれほど変わらないのではないかと思っている。では節約額を上回るほどの快適さが吸水ショーツにあるかというと、上記デメリットの通り、さほど無い。
あと単純に私は経済的だから吸水ショーツを模索しているわけではなくてただ単に股から血が流れ出るという不快さを解決したいから新しいガジェットを試みてるだけだけなんだよな。ということはいうまでもないこととして。

こういうわけで、引き続きもろもろ試行錯誤しながらではあるのだが、私にとって生理は基本的には「股からわけもなく血が出る1週間」くらいにはなっている。すでに個人的には十分ではあるのだが、しかしもっと理想の世界について考える。結局私は生理について究極的にどうなっていてほしいのか。
あまり子どもを産む予定はないから生理を起こす仕組み自体が体から消え去ってもそれほど問題はないのかも…と思うし、子どもを産む予定がある人だってわざわざ生理にうん十年単位で耐えてみたく、その後10ヶ月もつわりを抱えたく、すさまじい体の変化を受け入れたく、出産時は地獄の責苦のような激痛を経験したいわけでもなかろうから月並みではあるけれども試験管ベイビー試験管出産的なフェムテックがいよいよ登場しても本気でいいのではないのだろうか。子宮がない人は子宮のある人を試験管代わりにしてるわけですからいいですよね。生命倫理だどうこうという話はあるけれども子宮に頼って掲げられる生命倫理を背負えるほど私は自分の女性性に覚悟があるわけでもないし、人類の長い歴史で我々は戦争を通して生命倫理をあっけなく壊してきたのだから、そしてジェンダー間の対立を生みたいわけではないけれどヴァージニア・ウルフが言うように男性と男性が用意した教育機関が戦争を引き起こし生命倫理を脅かしたというのなら、21世紀のちょっとの期間だけ女が生命倫理とやらをぶっ壊させていただいてもいいのではないか。良くないか。