もはや懐かしい舌触り

今年は映画をよく観た。本でも美術展でもなく映画だった。年のはじめは「パラサイト」('19)の公開もあって韓国映画のおもしろさを知ってあわせて15作品ほど韓国作品を観たと思う。パク・チャヌクの「オールドボーイ」('03)、同じくパク・チャヌクの「JSA」、ユン・ジョンビンの「ブラックビーナス」あたりは非常に印象に残って、エンタメと政治・社会風刺と芸術性のバランスのとれた作品を知ることができた。映画はほとんどNetflixで観て、映画館で観たものは少なかった。マシュー・ボーンの「ロミオとジュリエット」を恵比寿で観たのと、グザヴィエ・ドランの「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」をギンレイホールで観たくらい。

本はそれほど読まなかったが、ドストエフスキー『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』を再読した。年を追うごとに体の奥へ奥へと文章・物語が入り込んでいく。ただ『カラマーゾフの兄弟』も『地下室の手記』も”罪深い女”的な存在に救いの先を求めているようで気分が悪かったがこのあたりはもう少し慎重に読み込む必要があるのかもしれない。

漫画はよく読んだ。漫画と小説を対峙させることはもう古臭いしぐさなのかもしれないが…『チェンソーマン』は流行りに便乗して読んだが映画的なコマ割りが印象的だった。モノローグが極端に少ないことも読みやすさを生んでいた。『鬼滅の刃』『呪術廻戦』なども便乗したがこちらは主人公のひねくれ度合いがゼロに近くあまり共感出来なかった。私は『ワンピース』より『NARUTO』が好きなタイプの人間らしい。『NARUTO』も思い出して漫画喫茶で途中まで読んだがとりわけ後半は存外話が難しくこれは当時の少年少女はついていけたんだろうか?

美術展がそれほど行けなかったのが悔やまれる。来年1月で閉館する原美術館の展示ももたもたしていたら予約枠が埋まってしまっている。一方で今年は国内旅行をよくしたので(広島、青森、長野)、その土地の美術館の常設などを見ることが出来て幅が広がった(ような気がする。実際は頭に入っていないので駄目)。

ツイッターなどでこうやって1年を振り返っている人を見かけるとつい「年末がなんぼのもんじゃい」と斜に構えてしまう向きもなくはないが、我々は素手で山を登れるほど才覚に恵まれている側の人間でもないから、登山のときハーケンを打ち込むように区切り区切りでしっかり自分の記憶に自分のなしたことを刻んでいかなければ生きた心地がしないのだ。