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下着の一生

色恋沙汰

二年間か三年間、使っていた下着がだめになってしまったので捨てた。鋏で切って(転用防止のためだ)、いつも使う香水をふりかけ、白い紙でつつみ、「いままでほんとうにありがとう いろいろあったな ほんまにありがとう」と言った。まじで口に出して言った。宗教かい。それから不透明のビニル袋に入れて、いまから捨てる。

 

そういえばこの下着ははじめてのバイトのお給料で買った下着。この下着を買ってから一年くらいはまじでなんもなかったんだけど、逆に言えば二年目以降はいろいろあった。男に会って、大事だと思って、けど事情により別れて、ほんでそれからこの下着もしらんくらいたくさんの男と寝た。きょう捨てる下着はその大事だと思った男との数少ない逢瀬のなか、二回も見せた下着なんだった。かといって別に格別のお気に入りというわけではなく、ベーシックやし二度見せるならこれかなあくらいで二回目を迎えただけやったんやけど(そのときには、もうほかの下着が二回以上その男に見られることはないだろうことはわかっていたのだ)。

そういうわけで一応は思い出深い下着だったから、捨てるかどうかはなんとなくだいぶ迷ったけど長いこと使っていたこともあって毛玉が目立ちはじめていて、なんとなくのよれもできていたし、その男とのはじめての逢瀬で使った下着はまた別のやつやったから、ええか、となった。下着一着捨てるのに昔の男の思い出にめためたにされる、わたしの精神の弱さよ。

 

男の逢瀬への準備はいつもやることてんこもりなのであって。化粧を落として、シャワーを浴びて、サボンのスクラブで肌を磨き、男が舐めても死なぬ程度にボディークリームを塗り、下着を選び、化粧をし、香水をかけ。

 

下着、男の人のなかではよう見る人と見やん人に分かれる。見る人はじろじろ見るし感想も言ってくれるしつけたまますることもある。見やん人はぺろっと剝がされて終わりなんだけど。ああその男は前者やったのう。はじめて見せた下着に、「お花がいっぱい」とかアホみたいな感想言ってましたねえ。はじめて見せたTバック、つけたままして、コンドーム、やぶけましたねえ。などと思い出すことで重ねてセンチメンタル。見る男も見ない男もおるけれども、しかしわたしにとって下着は常に100パーセント、逢う男を想って、選んで、それが積もった灰のように薄暗いけれども確実な過去。

 

さよなら下着、おまえのしらん私の人生がはじまるし、おまえも男もいまは私にはおらんけど元気、奇遇にもきょうは海外から頼んだ新しい下着が届く日やし。この新しい下着を、私は誰を想ってどんな人生を願って、履くんやろねえ。