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えーんえんとくちから

色恋沙汰

私は去年の今頃くらいから男関係が急にだらしなくなって、だらしなくなったがゆえにいろいろ苦しむことがあって(具体的には性的悪縁特有の、好きだの好かれてないだの、そういうこと)時間を浪費することもあったんだけど、最後の一人だった悪縁に恋人ができそうだということでその最後の一本もようやくぷっつり切れた。バレンタイン三日前の出来事。

私は二年前の今頃くらいからデパート催事場のバレンタインチョコレート売り場のアルバイトをしていたのだけれどそれも今年は従事しておらず、チョコレートを売ることも、愛を捧ぐことも、二月十四日に向かって真剣なまなざしが飛び交うことも、私には人間どもの素振りの集合体のように見えてくる。

言いたいことはいろいろある。やっぱり私のことはアレだったんだねソレだったんだね。いや、そうじゃないよ。いや、そんなことは言わなくていい。ありがとうって言えばいいごめんねって言えばいい? ごめんねのほうが多分いい。でも、勘違いしないでよ。私も多分、あなたの性行為が好きだったから、あなたのことが好きだった。あなたの想像するようなロマンスはこちら側にもなく、それってつまりシャドーボクシング、最後まで意思は不疎通。

しかし、気分も沈むばかりかと言えばそうでもなく、変な高揚感も確かに私を引っ張り上げている。いままで彼らに甘えて考えてこなかったこと、やってこなかったことをやりたい気持ちに満ちている。沼から上がって私はシャワーを浴びている。

 

このだらしない関係は二つの意味で私を沼に巻き込んだ。

一。肉体関係を持つことによる、どうしようもない、恋愛、恋慕、詩情の変化。

私は、だらしない男関係はすべて自分で選択したものだと思っていた。友人に「大切にされてない人間関係にどうしてすがるの」となんども怒られたが、「大切にされていない人間関係」を望んだのは私自身だからその批判は的外れだし、「すがる」のは目的じゃなくて手段のうちに発生したちょっとした事故だった。ヒューマンエラーってやつ。もちろん、毎度事故を起こしていたので要するにそういう関係は私には向いていないということがよくわかったんだけれどね。

二。人間関係を持つことによる、無意識的な甘え。怠惰。看過。

けれど、自分で選択した、ただそれだけで、その選択が、自分にとって良いことであるかどうかというのは定かなものではないらしい。身軽になったからだで次の予定のことを考えると、私は“男性諸君に逢う”という物理的時間の拘束だけでなく、逢う以外の時間でもいろいろこの関係に抑圧されて行動が制限されていたっぽい。「今日、逢えるかな?」「ライン来てるかな?」とかそういう甘い思索のための時間だけのことを言っているんじゃない。「これはあの人に教えてもらおう」とか、「あの人にこう思われるためにこうしよう」とか、そういう空想、つまり、人間関係があるということに甘えて自分による自分のための自分の努力を怠っていた、という点で自分が自分に抑圧をかましていた、ということにはっきりと気づいたのだ。

悪縁たちの中には英語を話す人もいた。だからまあ、英会話教室は通わなくていっか。

悪縁たちの中には私のSNSを知っている人もいた。だから、その人にかわいく思われるような写真でも撮っておこうかな。

みたいなね。(アホか!)

 

こう書いていると本当に、ほんっっっっとうにくだらないけど、事実、本当にそういう思考に陥っていたのだ。恋愛的な意味でも人間の成長としての意味でも、ほんとうに私は泥沼のなかにいたなあというのがありありと思い起こされて私の目はようやく覚め、いままで怠ってきたことをいまばりばりと進めている。ありがちで本当に恥ずかしいんだけど、大切なもの、大切にしたいものがはっきりと目でわかるようになって、要するに…断捨離はじめちゃった///。 

 

でもきっと、ある人間関係があるから私は何もしなくてダイジョーブイ/これをしないとチョーヤバイ、って思ってる人、人間関係によって自分の選択、生活、人生が抑圧されている人、けっこういっぱいいるんだろうな、とも思う。その人間関係が良性であれ悪性であれ、自分の人生は自分の人生だもの。そういう無意識な抑圧、コントロールに意識的でありたいしそれらに対して中指を突き立てていきたいよね。

 

私がかかわってきた男性みんなについていろいろぐちりたいことはある。確実にあと三か月は私のことは恋人にしてくれなかった男性についてうじうじ悩んだり泣いたりもするわ。絶対する。するだろうけど、でも、大丈夫な部分もある。大丈夫な部分を大事にしていきたい気持ちもある。その大丈夫な部分が、きれいな砂浜にきれいな波がかかるように、さあっと広がっていけばいい。押しては戻り、引いては満ちる。そんなことを思った、二〇一七年もはじまったばかりの二月。バレンタイン二日前。

 

 

えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい

(笹井宏之『笹井宏之作品集 えーえんとくちから』)